ホロコーストから生き延びたユダヤ人・・「戦場のピアニスト」(2003)
このところ、過去のアカデミー賞受賞作品をBS1が連日のように放送しており一昨日は「戦場のピアニスト」をやっていた。重い映画で落ち込んでいるときに見られるものではないのでスルーしたが、2003年に映画が公開されてDVDリリースされたものをその当時見たのだが、直前に偶然にも主人公(実在した)のポーランド人、ウワディスワフ・シュピルマンの自伝「ザ・ピアニスト」(春秋社)をたまたま読んでいたため映像化されたことに驚きつつ期待して見たことを記憶している。
ストーリーはひとりのピアニストの青年(ナチ政権下ではワルシャワの放送局勤務、終戦後にヨーロッパで著名なピアニスト、音楽家として活躍した。)がワルシャワ・ゲットー(ユダヤ人の強制的居住地)の中で家族と共に暮らし、収容所への連行、ワルシャワ蜂起のあとも運良く生き延び、廃墟となったゲットーの中でほとんど孤立して生きる為のすざまじい日々の記録である。
殆ど無人と化したゲットーの中で、飢餓と戦い、重い病気にかかり「もう限界」というときにワルシャワに派遣されてきたドイツ軍将校ホーゼンフェルトに見つけられ、彼の援助によって生きながらえることができた。・・映画は自らもユダヤ人として母をガス室で殺され、逃亡の日々を送ったロマン・ポランスキーが監督をし、ゲットーの惨状などについてはCG処理がなされそのすざまじさを表現している。映画は同年カンヌ映画祭のパルムドール(最高賞)、オスカー7部門など多くの栄誉に輝いたが、私は先に読んでいた原作のほうが胸を打つものが大きかった。
原作は1946年「ある都市の死」という題名でシュピルマンが自身の体験を書いたもので、これが1998年ころイギリス、ドイツなどで出版、当時シュピルマンはピアニスト以外にポップス、子供向け音楽、ムードミュージックなど広範な分野で活躍するヨーロッパでも有名なポーランド人音楽家の第一人者だったため、その数奇な半生に多くの読者が衝撃を受けた。映画化は「戦場・・」が最初ではなく50年代にポーランド映画が作られたらしいが冷戦時代でそのあまりにも「政治プロパガンダとして歪曲された内容・・例えばシュピルマンがゲットー蜂起のレジスタンスのメンバーだったとか)であり、現在では過去に葬られている由。(シュピルマンについてのNHK特集で見た)
「ザ・ピアニスト」は2003年の映画公開とともに「戦場のピアニスト」として再販されており、主 人公の名前もスピルマン→シュピルマンに変えられた。文学(文章)に対して映像が持つ力は圧倒的であるけれども、こういう実話物に関していえば「映画の方が良かった」と思う作品は今だにあまりない。映画としては上手く出来ていても「原作とは違う作品」として評価するべきものなのかも知れない。(例えばベルトリッチの「ラスト・エンペラー」、映像としては圧倒的だったが、やはり溥儀の自伝「我的半生」に感銘を受けた。生身の人物がたとえ自己弁明を多々混えて書いたものであっても。)
映画のメインストーリーになっているドイツ人大尉ホーゼンフェルトについても本の最後に遺 族が提供した彼の日記の抜粋、彼が戦後どうなったかなどが載せられている。(写真右:本人の写真)彼は終戦後連合軍(ソ連)に拘束され、遺族がシュピルマンを通じて彼の解放に奔走、シュピルマンも極力協力するが連合国(ソ連)に拒否され最後はスターリングラード捕虜収容所で殺された。ホーゼンフェルトは召集されるまでは高校の教師で、人格者であった由。ドイツ軍大尉であってもユダヤ人を助ける行為は恐らく命がけであっただろう。「戦場の・・」映画の中でのシュピルマンとのやりとりに「お前」と字幕がでるが「原作ではDu(お前)ではなくSie(貴方)と書かれているから正しく訂正して欲しい」とシュピルマンの遺族(息子さん)から映画会社にクレームがついたという。ホーゼンフェルトは決してユダヤ人であるから蔑視するという人ではなかったのだ。
なおシュピルマン自身は2000年に89才で亡くなっている。本を読んだときに驚いたのはシュ ピルマンの息子さんのクリストファー・シュピルマン氏が日本人と結婚して長く九州に在住、東大、九州大学などあちこちの大学で教鞭を執られて、「シュピルマンの時計」(2003・小学館)を出版された。クリストファー氏はフランスやロンドンの大学で学び渡米してイェール大で研究生活を送り、そこで知り合った日本人留学生と結婚されたということです。 現在は福岡に在住、九州産業大学法学部教授としてご健在です。(今年で60才)
何かとりとめもなく書いてしまったけれど今日のブログのまとめ「人間は逆境に置かれたとき、生きようという強い精神力を持たないと生き延びられない」と痛感したこと。心折れて早々にギブアップして自滅してしまうだろう、私などは。・・・とつくづく思う今日この頃です。
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