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軍事政権から25年も経って未だに心に傷を抱えて生きる人々・・・「瞳の奥の秘密」

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アルゼンチン映画「瞳の奥の秘密」(2008・ファン・ホセ・カンパネラ監督)は、公開当時34週ロングラン大ヒットし、アルゼンチン・アカデミー賞を総なめにした後、翌年には米アカデミー賞・外国語映画部門最優秀賞を受賞した作品である。この受賞は同じく軍事政権下の国民への残虐を描いた「オフィシャル・ストーリー」(1986)が同賞を得てから20年目にあたり、未だにあの時代の傷が現実の生活に影を落としたまま生きている人々が数多く存在することを教えてくれる映画である。(アルゼンチン国内で空前のヒットをした理由のひとつもそれが原因かもと推察される。)映画としての完成度が高く、全体のストーリーがサスペンス仕立てになっているためラストに至るまでのストーリーを詳細に記すことはできない。さらに当時のアルゼンチンの司法制度がわからないので刑事や検事の権限、互いの関係などについても明確には述べられない。

ものがたり:1974年、ブェノスアイレスの刑事裁判所に勤める刑事ベンハミンは同僚のパブロ、上司で判事補のイレーネとともに或る殺人事件を担当することになる。それは幸せな新婚生活を送る若く美しい妻が、ある日アパートで強姦、惨殺されるという衝撃的な事件だった。事件は当時このアパートで配管工事をしていた作業員の自供によって落着する。      
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ベンハミンらは犯人が厳しい拷問の結果、自白を強要されたことを推測するものの裁判所の上司は「事件は終わったのだ」とベンハミンらの捜査の続行を禁止する。(自白した犯人は拷問のため瀕死の状態だった)                                       

1年過ぎたある日、ベンハミンは駅のベンチで偶然に被害者の夫で銀行員のリカルドに出会Photo_6 い、リカルドが事件以来1年間、毎日駅頭で真犯人探しをしていることを知り驚愕する。ベンハミンは判事に捜査の再開を訴え、許可が下りないままに同僚パブロとともに無断で捜査を始める。「お前の行動は判事補のイレーネを巻き込むことになるんだぞ。」と脅かされても捜査を止めない。2人は事件を追う中でアパートに残された幾通かの手紙、被害者の故郷での昔の写真に(大勢で撮った)何度も出てくる従兄(だったと思う)に目星をつけ、張り込みや聞き込みでとうとう田舎からブエノスアイレスに出てきていた従兄を拘束することに成功する。彼こそが真犯人だった。 (写真左:リカルド)                                        

そして犯人イシドロはついに裁判で「終身刑」を宣告され刑務所に送られる。                

ここで感想。「瞳の奥の秘密」はずばり的確な題名だ。                               

*ベンハミンがイシドロが従妹リリアナ(殺された)に当てた数通の手紙と昔の写真を現場のアパートから見つけて犯人を確信するシーン。写真に写ったイシドロのリリアナに向けられた異様なまなざし(執着をこめた)。                                   

* 尋問されてもあくまでシラをきる イシドロに突然イレーネが「貴方なんかには女を強姦する熱情?も体力もないんでしょ。貧弱な一物ぶらさげてるの、見なくてもわかるわよ。」 ・・挑発に乗って逆上し、豹変するイシドロ。下穿きを脱いでイレーネに襲い掛かろうとする。イレーネがイシドロの瞳の奥の狂気を見て挑発する見事なシーンだ。                     

*駅で1年ぶりに被害者の夫リカルドに出会うベンハミン。リカルドの瞳の奥に殺された妻への愛を見て心を揺さぶられるシーン。

ところが事件は意外な展開をする。ある日何気なくTVニュースを見ていたベンハミンは独裁Photo_4  者イサベラ・ペロン大統領(夫亡き後政権を引き継いでいた)の護衛官の中にイシドロの姿を発見して驚愕するのだ。「終身刑」で刑務所にいるはずのイシドロは実は反政府者の情報を密告して許され、その(冷酷卑劣な)性格を見込まれて自由の身になったばかりか、法外の出世までしていたのだ。そしてたまたま出向いた官庁でイレーネとベンハミンに出会ったイシドロは銃をちらつかせて彼らを威嚇する。彼らの関係は逆転したのだ。               

さらにベンハミンへの恨みを持つイシドロはベンハミンのアパートに押し込んで間違って居合わせたパブロを撃ち殺してしまう。             
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挫折感、友の死への呵責、身に迫る危険を感じたベンハミンはイレーネと別れて田舎に去る。(写真左:駅頭で別れる2人)        

そして25年の年月が過ぎる。イレーネの愛を受け入れなかった中途半端な自分(彼女はハーバード出のエリートなのに自分は高卒の叩き上げというコンプレックスが邪魔した)、パブロを誤って殺させてしまった呵責などに苛まれる虚しい日々。ついにベンハミンは過去の自分と向き合い、人生の再出発の糸口を求めるべくブエノスアイレスに向かう。            

イレーネは既に結婚して2人の子持ち、相変わらず裁判所に勤めている。イシドロはパブロを殺した日からなぜか消息を絶ったという。 ベンハミンは事件以後の25年を自分と同じように辛い日々をすごしたであろうリカルドに会うために、地方の銀行に転勤して田舎住まいをしているという彼の元に向かうのだ。Photo_7 Photo_8
リカルドは老いてなおひとり身、諦念の中に生きているかに見えた。「過去にこだわる者は未来をも失ってしまう。過去を忘れてしまえ。」と諭すリカルド。諦めてブエノスアイレスに向かうベンハミンだったが・・・再びリカルドのもとに引き返し、そして思いも寄らないラストが待っている。                                                   

*ベンハミンはなぜ引き返したのか? それは老いたリカルドの瞳の奥に宿っている彼の真の心を見たからではないだろうか?                                          

男女の愛と軍事政権下での殺人事件を織り交ぜた、非常に上手くできた完成度の高い映画だった。ラストまで「ハラハラ、ドキドキ」させるだけでも「この映画は秀作(朝日新聞コラム:沢木耕太郎氏)だといえよう。軍事政権下(厳密には1976年から始まった)の非条理、何でもアリの不気味な社会も怖い。・・                                    

最後にこの映画の受賞の20年前に同じく米・アカデミー賞を受賞した「オフィシャル・ストーリー」(1986)は私のブログでは2010年10月7日に取り上げているが、こちらは軍事政権崩壊後まもなく作られた映画であるためか、軍事政権の行った政治犯罪を真っ向から取り上げた、いわば「直球的作品」。どちらかといえば私は「オフィシャル・ストーリー」の方が好きです。                                                                                                                 

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